老朽化マンション・団地、要件緩和で建て替え増加!?

法相の諮問機関の法制審議会は21日、分譲マンションや団地を建て替える決議の要件を緩和する区分所有法の改正素案を示した。高度経済成長期に建てられた集合住宅は建物と住民の「老い」が急速に進む。狙い通り再生を促すには、建て替え費用の負担を抑える仕組み作りも欠かせない。

法制審は同日の会合で、建物に客観的な問題がある場合に建て替え決議の要件を緩和する案を提示した。①耐震性②防火性③外壁④給排水設備⑤バリアフリー――のいずれかに当てはまることが前提となる。

 

 

マンションの建て替え決議は要件を「所在不明者を除く4分の3の賛成」に引き下げる。現行法は所有者全員の5分の4の賛成が必要で、所在不明者は反対票に数えるため合意が難しかった。

1つの敷地内に複数の建物が建つ「団地」の建て替えについても決議要件を緩和する。国土交通省によると団地は全国に3000ほどあり、全人口の1割程度が居住する。団地を建て替える場合は団地全体と各棟の決議の両方が必要になる。

全棟建て替えの要件を①他の棟含めた所在明らかな所有者の4分の3②各棟ごとの所在明らかな所有者の過半数――の賛成が必要だと改める。団地内の1棟の建て替え承認を得る場合は、集会出席者の3分の2の賛成を求める案を検討する。

政府は素案をもとに議論を進め、2024年の通常国会に区分所有法の改正案を提出する見通しだ。

政府がこうした策を講じる理由は、建物と住民の「老い」を背景に、集合住宅の円滑な管理や再生を決めにくい事例が多く生じているからだ。

鉄筋コンクリートのマンションの寿命はおよそ60年とされる。国交省によると、築40年以上の分譲マンションは42年末には22年末の3.5倍に当たる445万戸に増加する見込みだ。

住民の高齢化も進む。1979年以前に完成したマンションの世帯主は、およそ半数が70歳以上だ。相続のタイミングで所有者が不明になったり、空き家になったりする事例が増えている。

法制審は決議の要件を変えることで、建て替え需要を後押しする効果を想定する。東京建物プロジェクト開発部事業推進グループ、小林亮太課長代理は「マンションの建て替え決議は、最後の数%の賛成取り付けに非常な労力を費やす。要件を引き下げる意味は大きい」と語る。

建て替えに伴う住民の費用の負担を軽くしなければ、建て替え決議は大きく増えないとの見方もある。不動産大手幹部は「新たに販売できる住戸を確保するために、建て替え物件の容積率を2倍程度緩和する策などが要る」と指摘する。

マンションを建て替える場合は新しい建物を従来より大きくするのが一般的だ。広げた分を新たな所有者に売却し、そのお金を工事費に回すことで既存の所有者の負担を抑えられる。容積率いっぱいまで使った物件ではこの手法は使えない。

国交省の調べでは2017年から21年までの建て替え時の平均負担額は1941万円だった。1997年から2001年までの378万円と比べて5倍以上となった。資材の高騰などで建設費が上昇したことも影響している。